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※こちらのショートストーリは、メルマガ寄稿文に加筆修正をしたものです。

メール、手紙、歌と花、言の葉の響き 

2009年、8月30日。列島を奇妙な熱狂で巻き込んだ総選挙は、幕を閉じた。
日本国はこの時、まさに運命の転換期を迎えたとも言える。
逆風吹き荒れる中、第84代日本国首相・霧島恵之進の娘、霧島さくら子は、辛くも二度目の国政選挙当選を果たした。
未だ若輩の身ではある。が、国民の為に頑張ろうと、決意を新たにしたばかりだ。
支援してくれた人々、そして、亡き父のかわりに自分を可愛がってくれる“朝生のおじ様”の為にも。

銀座の鳩居堂。
長年の常連であるこの店で、さくら子はいつものように、便箋や絵葉書を選んでいる。

さくら子は、携帯電話が苦手だ。
学生時代、周囲のひとびとがこぞって携帯を持ち始めた時期にも、さくら子は頑として購入しなかった。
それから数年、いつしか携帯を持つのが当たり前の時代になってしまい、仕方なく契約したのだ。
今となってはさくら子も、既に十年近く携帯電話を使用していることになるのだが、未だその機能を使いこなしているとは言い難い。
朝生のメアドも当然知っている。しかし実は、メールを送ったことは一度も無いほどである。

さくら子にとっては、携帯メールというものが、どことなく味気ないように感じられて仕方がないのだ。
それよりも、文をしたためる方が断然に好ましい。
古風な和紙の便箋に、万年筆で、素敵な言葉を幾つか。
それが、さくら子のテンポに合っていると思う。

今や世の中には、“メル友”などというものも存在するのだという。
「平安時代には、歌に思いを託し、季節の花まで添えていたって言うのに・・・今って、風流じゃないなあ」
さくら子には皆目想像もつかないが、携帯メールがつなぐ縁、というものも、あるのだろうか?

秋の草花が控えめに描かれた数々の便箋を前に、さくら子はすっかり迷ってしまった。
「九条君、アドバイスもらえる?朝生のおじ様に、お手紙をお送りしたいの」
「勿論。でも、さくら子ちゃん、朝生総理にはいつも会っているでしょう?あらたまって、書きたいことがあるの?」
「・・・うん。ちょっと、ね」
とても国会議員には見えない童顔ふたり組が、幼いころと変わらぬ様子で、思いを綴るための紙を選ぶ。
往来には、秋の風が吹き始めている。

 

さかき

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