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※こちらのショートストーリは、メルマガ寄稿文に加筆修正をしたものです。

扶桑の葉陰、人集まれる、盂蘭盆会 

首相を乗せた車が、霧島家の菩提寺の前に停車した。
色とりどりの生花を手に、霧島さくら子は門前に下り立った。
今日のさくら子は、和服を着ている。
浅葱の地に、桔梗の花が控えめに描かれた、気に入りの絽である。

午前九時、朝の爽やかな空気が辺りに満ち、木々の間からは陽光が差し込む。
首相の一行は、時折、花束や水桶を持つ家族連れとすれ違った。

霧島家の墓には、代々の当主の名と、亡くなった年齢が刻まれている。
さくら子は、そのうちのひとつを示した。
「ほらココ、わたしの大叔父、22歳、と書いてあるでしょう?」
東田が、
「若くして亡くなられたのですね」
と応じると、さくら子が答えた。
「戦死なんです」
順に水で清められた御影石は、生気を取り戻したように見える。

さくら子は居住まいを正した。
「九条君と東田さんは、何故お墓参りをするのか、と考えてみたことはありますか?勿論、故人を懐かしみ、悼む気持ちは当然として。そうではなく、何故、顔も知らない祖先のために墓を守るのか、ということよ。
わたしは、それは多分、説明不可能な、しかし厳然と課せられた義務、としか言いようがないと思うの。だって、わたしたちがしなければ、いったい誰が、彼らの死を悼むことができると言うの?それは他人の役目ではない、わたしたち子孫こそが、すべきことだわ。彼らの死のうえに、我々は生かされているのだから。
・・・このうえなく尊い、美しい、義務だと思うの」
そう話すと、さくら子は手を合わせた。
九条も東田も、神妙な面持ちで、総理に倣った。

墓参りを終え、敷地内の緩やかな坂道を下りながら、九条がのんびりと話し出す。
「総理の仰ったような、理屈では割り切れないお考えというのも、大事なんですねえ」
すると東田が、間髪入れずに答えた。
「施政者たるもの、当然です」
九条は驚いた。が、同時に、なんだか嬉しくなり、
「そうですね!」
と、東田の肩をポンとたたいた。
案の定、東田はイヤそうな顔をした。

天色の中、入道雲は膨らみ、草いきれを孕んだ風が渡る。
蝉の鳴く声、茂る青葉の群れ。
旧き時代から一寸も変わらぬ日本の夏風景が、今年も拡がっている。

「この後、夕方になれば、そこかしこに迎え火が焚かれて・・・幽玄で素敵だと思いませんか?わたし、日本人独特の美意識の存在を、ひしひしと感じるの!」
同行したスタッフ達を振り返り、さくら子は笑顔を見せた。

 

さかき

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