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最高の賛辞は「吐き気を催す」 

「顔のない独裁者」の主要登場人物は、駒ケ根岳人(通称GK)、秋川進、涼月みらいの三名だが、中でも駒ケ根は、特に重要なキャラクターだ。
駒ケ根は、福島県は猪苗代湖畔の貧しい家庭において、多人数の兄弟のうちに生を受けた。
福島の美しい空と山と湖とに囲まれのびのびと健やかに育つ道もあったろうに、様々な外因に翻弄された彼は、数奇な運命を辿ることとなる。

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不幸の中で必死に生き長らえていた少年は、ある夏の日、湖畔の別荘へ避暑に訪れていた少女と出会い、淡い恋心を抱く。
少女の名は「なお子」。
駒ケ根にとって彼女の存在は、暗夜に突如現れた、自分を救うための一条の光であるかのようだった。

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駒ケ根のムーサ、なお子は、洋館のテラスにてヴィオラを奏でては、最上の笑みと優しさとを彼へ届けていく。
なお子は会津の出身。
自分を育んでくれた福島を、心から愛する少女だった。

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しかし、時は無情に過ぎていく。
老いた駒ケ根が故郷の土を再び踏んだ時、そこに広がっていたのは、かつての美しい福島の情景とは微塵も重ならない、荒廃した田舎町の姿だった。
記憶の中では、通った小学校も、そこに隣接する神社も、変わらず鮮やかに生き続けているというのに!

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駒ケ根は、なお子の愛した会津を、福島を、日本を、守りたかっただけ。
そして勿論、なお子の佇んでいた、あの猪苗代の別荘の、真っ白なテラスをも守りたかった。

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誰かが誰かを、助けるべきときに助けず見捨てたら、どうなるのか?
この問題について、極限までグロテスクにデフォルメし、ディストピアとして描いたのが、「顔のない独裁者」だ。
主題は決して、”政治経済”ではない。
本作への最高の賛辞は、「吐き気をもよおす」だと考えている。

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駒ケ根は、被虐待児だった。
もしも幼かった日の彼に、外部からの温かい手が差し伸べられていれば、その後のすべての悲劇は起きなかったかも知れないのだ。
つまり、私が「顔のない独裁者」を通して世に訴えたかったのは、「私たちは、何らかの事件を目の当たりにしたとき、その被害者について見殺しにしてはならない」ということ。

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