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※こちらのショートストーリは、メルマガ寄稿文に加筆修正をしたものです。

君の名は 

(うわ。ギリシア訛りがきつ過ぎて、何言ってるか分かんねえ・・・)

ここはギリシアの南の島、サントリーニの街角。
白壁の続く美しい街並みに、洒落た雑貨が所狭しと並べられた店が、あまた並ぶ。
その中の一つの店で、日本からの旅行者である望月翔は、店主との会話がうまく通じず、少々困っていたのだ。

翔が困惑して顎の無精ヒゲを撫でていると、横から、流暢な英語が聞こえてきた。
「ちょっと!ギリシア語どころか、英語もろくにしゃべれないなら、ギリシアに来るんじゃないわよ!」
(ええ?!)
驚いた翔は声の方に顔を向けた。
すると、そこには、おそらく中高生と思しき超絶・美少女の姿があったのだ。
抜けるような白い肌に、ゆるやかなウエーブを描いたこげ茶色の長い髪、大きな灰色の瞳には長いまつ毛が上下キレイに生え揃っている。
(すげ・・・髪と目の色が違うけど、昔観た「天使とデート」のエマニュエル・ベアールみたいだ)
しかし、この物凄いレベルの美少女が、ひどいしかめっ面と酷い物言いなのは、俺の錯覚だろうか?
「えーと。いや、俺は確かにギリシア語は話せないけどさ。君らギリシア人は大抵、英語話せるだろ?ただ、発音が聞き取りにくいんだよ」
翔が滑らかな英語で返すと、美少女は少し表情を和らげた。
「あ、なあんだ。ただの田舎者かと思ったら、英語は分かるのね。で、何がしたかったの?アジア人青年!」
さすがに翔はここで、少し眉根を寄せざるを得なかった。いまどき珍しい、随分な言い方だ。
翔が面倒臭くなってその場を離れようとすると、美少女は店主に素早くギリシア語で話しかけ、さっと翔に品物を差し出した。
「はい、コレ。・・・って、これで良かったのよね?」
少女の態度が、急に自信なさげに変わり、翔を見上げる。
「・・・ああ。ありがと」
翔は意外に思い、あらためて彼女の顔を眺めた。
(ん?)
「もしかして、君、混血じゃね?」
すると美少女は、真っ赤に頬を染めた。
「オレ、日本人だよ。なんか君、日本人にも似てるカンジがする」
「・・・わたし、日本の血も少し入ってるわ」
「そか。やっぱりな」

店から出たふたりは、マゼンタ色の花をこぼれんばかりに咲かせている、ブーゲンビリアの木の下に立ち止った。
「お嬢さんさあ、ホントは優しい性格なんだろ?俺の買い物を手伝ってくれたんだからさ。まあ、イヤなこともあるかも知んないけど、世の中、色んな人種がいるから面白いんだよ」
「・・・」
「だから、あんまり、自分を卑下するなよ」
翔は買い物袋の中に手を突っ込んで、芳しい香りを放つオレンジを取り出すと、その美少女の手に押し付けた。
「ありがとな。俺は翔、日本の海辺の町出身だ。君、名前は?」
少女は少しの間迷っていたが、遠慮がちに口を開いた。
「・・・ソフィア」
「そか、叡智、だな。アクロポリスを頂くギリシアに相応しい名づけだ。じゃあな、ソフィア!」

翔は相変わらずのマイペースで、サントリーニの坂道を下って行った。
手にした皮つきリンゴを、丸ごと、かじりながら。

 

さかき

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