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※こちらのショートストーリは、メルマガ寄稿文に加筆修正をしたものです。

東田剛の遅すぎる春 

落ち葉が官邸の庭を美しく彩り、日差しは柔らかく辺りを照らしている、深秋の日。
昼休み中の九条と丹後が、デッキのテーブルでお弁当を広げ、ランチに舌鼓を打っている。
丹後が食しているのは老舗料亭の二段弁当。
かたや九条の手元には、あきらかに母親の手によるものと思われる、キャラ弁が・・・。
それはさておき、この珍しい組み合わせの二人が、呑気にボーイズ・トークを繰り広げているのだ。
九条がゆったりと、
「東田さんて、はっきり言って、女性にモテないと思うんですよね」
と語ると、丹後もすかさず、
「私もそう思います」
と同意する。
201X年、現在、日本は平和である・・・。

しかし、その平穏をぶち破るように、突然さくら子が、スゴイ勢いで官邸から飛び出してきたのだ。
手には何やら、A4サイズの紙を鷲掴みにしている様子。
「ちょっと!大事件なんです!」
さくら子が息せき切ってテーブルに走り寄り、何とか声を絞り出す。
「東田さんに、ファン・メールが来たの!!!」
何のことやら、すぐには分からなかった九条と丹後も、一瞬の後、声を揃えた。
「えええええええええええ!!!!!?????」

しかも大声が響き渡ったその直後、何とそこを、件の東田が通りかかったのである!
三人は一斉に東田を取り囲んだ。
「これ見てください!どうします!?ねえ!」
まくし立てるさくら子に、珍しく東田は恐れをなしたようで、素直に文面に見入った。
・・・そして、固まった。
そこには、

「東田様の鬼畜メガネなお姿を拝見するのが、毎日の楽しみです(はぁと)」

という趣旨のメールがプリントアウトされていたのだ・・・!!!

さくら子が、普段とは打って変わったように強気で、東田にガンガン話しかける。
「ねえ、東田さんて今、彼女いないんでしょう?てゆーか、彼女いない歴イコール年齢?あ、いや、そうじゃなくて、これ、返事返せば?恋が始まっちゃうかも!!!」
九条も丹後も東田を見つめる中、突如、東田は脱兎の如く、その場から逃げ出した!
「東田さーん!なんで!?嬉しくないんですか???」
さくら子が呼びかけると、東田は振り返り、
「私はエピキュリアンなのです!」
と一言叫び、その姿は瞬く間に見えなくなった・・・。

「エピキュリアンて?」
東田の消えた方角を眺め、さくら子が呟くと、丹後が応じた。
「古代ギリシアの哲学者、エピクロスを祖とする学派ですね。エピクロスの提唱した思想は『快楽主義』と言いまして。つまり今回のケースに限定して、非常にカジュアルに意訳しますと、『肉体的快楽の追及は、必ずしも精神的快楽をもたらすとは言えないため、最初から過剰な快楽を求めないよう、平穏に生きるのが良い』、という考え方です」
丹後の解説を受け、さくら子と九条は顔を見合わせる。
「それって・・・すっごく、後ろ向きじゃないですか・・・?」
さくら子は目をつむり、腕組みをして悩み始めた。九条はと言えば、椅子に座り直し、
「あんなこと言って東田さんて、実は人一倍さみしがり屋だと、僕は思いますよぉ」
と語ると、また美味しそうにキャラ弁を頬張った。
201X年、現在、日本はやはり平和である・・・。

 

さかき

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