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※こちらのショートストーリは、メルマガ寄稿文に加筆修正をしたものです。

これを見よ 上はつれなき夏草も 下はかくこそ 思ひ乱るれ 

午後の執務室。
梅雨明けした都内は、まさに今、夏本番を迎えている。
窓外に広い日本庭園が見渡せる特等席で、頬杖をついている女性の姿がある。
身長は150cmあるかないか、顔は童顔、眉毛が見えるほど短く切った前髪が目立つ。
外見からはとてもそうは見えないが、彼女は、国内きっての要職、というよりも最要職に就いているのだ。
他でもない、栄えある日本史上初の女性首相・霧島さくら子、そのひとである。

「みたま祭り、今年も提灯がキレイだったなぁ」
さくら子が誰に言うともなしに口に出すと、霧島内閣の若き官房長官、九条守が嬉しそうに反応した。
「さくら子ちゃんも行ったんだ!僕も行ってたんだよ。なんだ、一緒に行けば良かったね」
「てゆうか、わたし、友達と行ったし。それから、執務中ですので、“さくら子ちゃん”は、やめてくださいね」
さくら子と九条は幼馴染のため、時折、これと同様の会話が繰り返されるのだ。
(だいたい九条君と行くとか、絶対にあり得ないんですけど・・・)
さくら子が軽く引いていると、霧島内閣の首席秘書官、東田剛が口を挟んできた。
「どうやって行かれたんですか、総理。全国に、否、全世界に顔バレしまくってるお立場で」
至極もっともな質問である。
「え?普通に、浴衣着て、学生時代からの友人と連れ立って行ったんですよ」
「なんとまあ・・・ヤレヤレ、ですな」
東田は、一気に呆れ顔になった。さくら子は慌てて付け加える。
「あ、勿論、SPの皆様も一緒でしたよ?」
「当然です」

「ねえ東田さん。この、『新・日本経済新聞』に、東田さんも書いてらっしゃるんですね」
「・・・まあ、そうです」
「面白いし、ためになりますね。わたし、毎日ちゃんと読もうっと。九条官房長官も読んでるの?」
「読んでます!」
「わたし思ったんですけど、東田さんて、文章だと別人みたいですよね」
ぴくっと、東田のこめかみが動いた。
「私も思いました、総理」
秘書官・丹後が同意する。
「ですよね。普段は好戦的スタイル一辺倒なのに、文章だと抒情的というか、人外っぽさが薄れているというか・・・」
さくら子の弁を受け、九条が能天気に言い放った。
「実は別人が書いてたりして!」
東田は立ち上がり、ひとこと。
「・・・中の人など、いない・・・!!!」

「そういえば、九条官房長官は、みたま祭りにひとりで行ったの?あ、おつきのひとと行った感じ?」
「僕は、女友達5人と行きました」
九条の無邪気な返答に、執務室の全員が凍りついた。
「おんなともだち、5にん・・・!!???」
東田が、声を震わせた。
いつも冷静な丹後さえ、驚きを隠さない。
「女性5人と、九条官房長官、全部で6人で行かれた、ということですか?」
すると九条は、サラッと返した。
「いえ、女友達5人と、姉3人と僕、計9人ですね」
暦の上では大暑というのに、その場にいた全員の背中に寒気が走った。
「お、お姉さまが同行なさったの・・・?」
さくら子がドン引きでつぶやいた後、
「女8:男1とは、どういったおつもりですか!!!!!!!」
東田の、通常の3倍の怒声が、霧島内閣の執務室に響き渡った。
(・・・え。そっち?)
今はツッコミどころが違うだろう、と、九条と東田以外の全員が思った・・・。

執務室から避難してきた、さくら子と九条。
氷をたっぷり入れたアイス・アールグレイを飲みながら、ふたりは語る。
「ねえ、さくら子ちゃん。まるで、清少納言の詠んだ和歌みたいだね、東田さんて」
「ああ、続千載集の、あの歌ね」

これを見よ 上はつれなき夏草も 下はかくこそ 思ひ乱るれ

「人って、外面と内面とは、違うものなのよね・・・」
「うん・・・」

 

さかき漣

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