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※こちらのコラムは、雑誌やメルマガ寄稿文に加筆修正をしたものです。

一のイマジネーションの種から、千の花が咲き誇る 

これまでの4作品をお読みくださった方は気づいていらっしゃると存じますが、私はいつも植物を物語のキー・モチーフに使います。
この理由は単純に、私が植物を大好きであるため、花をひとつモチーフとして決めると、それに付随して新たなストーリーや、印象的なシーンが浮かび上がってくるからなのです。
「コレキヨの恋文」のときはサクラ、特に夜桜。
「真冬の向日葵」のときはタイトル通り、ヒマワリ。
「希臘から来たソフィア」のときは、ブーゲンビリアと桜。これは、ギリシアのイメージをブーゲンビリアに設定し、日本のイメージを桜にし、ブーゲンビリアと桜の対比によって両国の比較物語を想像しようとしたからです。
そして今回の「顔のない独裁者」、キー・モチーフは、白いユリと、ダリアです。

まずは一つ目、白ユリ。
皆様、この花の名を聞いて、何を思い浮かべますか?
ユリと言えば、強い香りと華やかな外見、そしてもしかして、ユリ根を思い浮かべた方もいらっしゃる?
うんうん、ユリ根、美味しいですよね~、ホクホクしてね~、オイラもアレ大好きで・・・(おっと、話がそれてしまうぜ)

実は私がユリをメインに使おうと決めたきっかけは、八月の初頭に敢行した福島取材です。
あの頃の私は非常なスランプに陥っており、「もう書けねえ・・・マジ夜逃げするか、もう完璧、筆を折るッス」てなカンジにまで追い詰められていたんです。
で、打開策として急きょ、取材に行くことが決まりました。
駒ヶ根覚人(こまがね・がくと)、通称“GK”の故郷、福島は猪苗代湖へ。
しかし極度のスランプゆえ、私には、取材先の候補をあげて対象を吟味する余裕すらありません。
そんなとき、社のスタッフさんが下調べをして取材コースを作ってくれたため、オイラは超他力本願なダメダメおっさん状態で、取材へ赴いたのでした。

福島で様々な場所を見まくり、写真を撮りまくり、とりあえず何でもいいから刺激を受けて、どうにか書く気を起こさせるのだ!と息巻いて。
で、本当に私の意図は何も無く、ただスタッフさんに言われるがままに訪れたのが、かの「天鏡閣」だったのです。

天鏡閣(てんきょうかく)。
ご存じの方も多いと思いますが、これは猪苗代湖畔に建つ、その白壁も趣深い、瀟洒な洋館です。
もとは有栖川宮家の別邸として建てられたもので、その後、高松宮家の所有となり、第二次大戦後には福島県に払い下げられました。
1980年ごろからは、文化財として広く一般公開されるようになったそうです。

で、この天鏡閣の周囲に、白いユリが多数、咲き乱れていたのです。
夏の日、照りつける日差しに辟易していた私は、この洋館を取り囲む雑木林に入った途端、涼しげな空気に驚かされました。
咲く花の芳香に満ちたこの場所を、まるで異空間のようにも感じ。
さらには、やはり白く美しい、瀟洒なテラスが作り付けられているのさえ目に入った。
ことここに至り、私の想像力(妄想力?)のスイッチが物凄い勢いでオンになったのです・・・!

もしも、このテラスに、腰まで髪のある美少女が日ごと立って、楽器を奏でていたとしたら?
楽器、楽器にも様々あるが、中でも弦楽器、それも小ぶりのものが良いのではないかしら?
そう、例えば、ヴィオラ。
小柄で可憐な美少女がこのテラスでヴィオラを奏でるのだ、そして奏者がいるのならば、当然ながら観客も必要だ。
その音色に耳を傾ける者は、きっと、この少女に恋をするだろう。
まるで天使の咽ぶ声のようなヴィオラの音に、少年は心を震わせることだろう!
そして、この光景を、一生忘れることはないだろう・・・!!!

さあ、私の中で、書きたい気持ちがむくむくと湧き上がってまいりました。

そして白いユリをモチーフに決めた私の脳内には、これに関連して、大きなイメージがわき上がります。
陳腐と言われればそれまでだけれど、白いユリと言えば、「受胎告知」の際に天使が手にしていた花、聖母マリアの純潔の象徴です。
私は幼い頃に家庭外で受けた最初の教育がカトリック精神に基づくものであったことから、大人になった今でも精神面に、キリスト教の影響を色濃く残しています。
マドンナ・リリー、天使、純潔、自己犠牲、十字架、救世主、磔刑・・・言葉の洪水が、私の中で起こりました。
ひとつひとつのモチーフが繋がっては離れ、また繋がり、不可思議な連鎖反応を起こし続け、物語の横糸が増強され続けてゆく。

こうして福島取材は、福島県各地の歴史・伝統・文化遺産、現地のひとの言葉、それらに触れられたことに大きな価値があったのは勿論のこと、それに加えて、「白いユリの花をメイン・モチーフにする」という大収穫を得て、幕を閉じたのでした。

さて、もう一方の、ダリアです。
ダリアの花は、今作「独裁者」の中に登場する回数は少ないのですが、それなりの意味合いを含ませてあります。

ときは今年の春に遡ります。
実は私は花言葉には詳しくなく、あまり気にしたことがなかったのですが、ソフィアを上梓した際、三橋経済塾生のTさんから、
「さかきさんのことだから、花言葉も調べた上で、ブーゲンビリアを印象的に使ったんですよね」
と言われたのです。
いや、びっくりしました。
確かに私はダブル・ミーニング、トリプル・ミーニングが大好きで、一つの言葉やフレーズ、エピソードに幾つかの意味を込めて使用し、ひとり「ほくそえんでいる」暗ーいヤツです。
が、花言葉までは全く気がまわっておりませんでした。
Tさんから指摘されて、試みにブーゲンビリアの花言葉を調べてみたところ、「情熱・あなたは魅力に満ちている・あなたしか見えない」・・・まるで、誰かさんたちの恋愛みたいですね。
まあ誰とははっきり言いませんけど、航太郎とソフィアの一本気で不器用な、ジェットコースターのような恋愛みたいですね!
非常に驚かされ、同時に、「花言葉と言うのは面白いもんだ、イマジネーションの種のひとつになるな」と、このとき考えたのです。

さて、件のダリアの花言葉を調べてみますと。
「移り気」「華麗」「威厳」「不安定」「栄華」などなど・・・こ、これは。
「顔のない独裁者」既読の方には、少々どきりとして頂けたのではないでしょうか。
中でも、「移り気」や「不安定」という単語、花言葉にしてはマイナス・イメージで、心のどこかにひっかかるカンジが致します。
何故こんな言葉が花言葉になっているのか?と説明を読み進めてみますと、「ナポレオン皇妃のジョゼフィーヌがダリアを愛した逸話から」「フランス革命後の不安定な情勢下、ヨーロッパでダリアが大流行したから」という文言が。
政権の中枢近くにあった女性ジョゼフィーヌ、さらには革命、しかもフランス革命!
・・・まあ、花言葉とはとても曖昧なものらしいので、あまり突き詰めて考えてもしょうがないと思うのですが、しかし、ストーリーを形作るうえでの“イマジネーションの種”という意味では、非常に大きな貢献をなしてくれました。

えーと、随分な徒然書きになりましたが。
今日のコラムは、私の創作にとって、いかに植物の存在が大きいか、というお話でした。

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