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※こちらのコラムは、雑誌やメルマガ寄稿文に加筆修正をしたものです。

ギリシア・ガストロノミー紀行3 

さてサントリーニで初のギリシア料理に舌鼓を打った我々は、今度はイアの街へ向かいます。
イアとは先々々週も書いた通り、フィラと並ぶサントリーニ屈指のリゾート街です。
しかし「夕日の名所」と言う意味では、フィラよりもイアの方に僅かながら軍配が上がる、と耳にしました。
そういった理由で我々も当然、優美極まるサンセット・シーンを見るためにこそ、イアに向かったのでした。

サントリーニの街と街とを結ぶ道は、非常に殺風景です。
植物はほとんど見当たらず、道の両側を暗褐色の砂や岩が覆い、迫ってきます。
時折小さな白いデイジーが健気に咲く様を見かけるものの、まるで、リゾート地に来ていることを忘れてしまいそうなほどの殺風景ぶり。
どこかでこれに似た光景を見たことがあるな、と思ったら、なんと富士山の登山道なのです!
私は何故か富士山に幾度か登った経験があり、「富士に登らないバカ、二度登るバカ」という格言(?)から鑑みれば、「幾度も登ったバカ」になるワケです・・・。
ま、それはさておき。
サントリーニ島の、街以外の場所は、まさに噴火の跡地であることを実感させられる雰囲気です。

イアの街に着くと、多くの観光客が同じ方向を目指し歩いています。
勿論、街の最奥、海に向かい開けたベスト・ポジションで夕焼けを眺めるために。
イアの街に私たちが着いたとき、実は、最高の瞬間を観るタイム・リミットまでにはギリギリの時刻だったのです。
それに気づいた我々取材班は、一様に足を速めました。
当然ながら私も人人人の間をかいくぐり、目的地に辿り着こうと走りました、そう、まるで最終章の夜のソフィアのように・・・って、イヤ、ソフィア嬢とおいらを並べて語るなってハナシなのですが。
Eさん、Mさん、Aさんと、皆とはぐれてまで石段を走りまくったさかきでしたが、「おーし、とうとう着いたぜ―」と思ったら、なんと既に夕日はその身の殆どを海水に浸していました・・・くぅう。
悔しさと共に、沈む日を見ましたが、それでもやはり、水面に溶けるコーラルの光はあくまで美しかったのです。

Aさんおすすめのイアのカフェで素朴に美味しいケーキを二種類もたいらげた後、フィラの街に舞い戻り、時差ぼけと戦いながら何とか眠りに落ち。
翌日、朝靄の中での朝食。
ギリシアでは、ホテルでもレストランでもカフェでも、もう必ずと言っていいほど、オレンジの生絞りジュースが置いてあります。
日本国内ですと、果物のフレッシュのジュースは、メニューの中でも高級な部類ではないでしょうか?
それが安価に気軽に飲めるとは。
フレッシュのオレンジジュース、ギリシアで私が特に気に入った食風俗のひとつです。

朝食も済ませると、今日は朝から、フィラの港に向かいます。
ソフィア既読の方には「何故、港?」という感想をお持ちの方もおられるかも知れません。
実はですね、航太郎とソフィアの最後の盛り上がりのシーン、こちら、当初は船を舞台にするつもりだったのです。
エーゲ海に浮かぶクラシカルな船、沈む夕日、絶世の美女と、二十代の頃の真田広之さんと相似形の美青年。
古典的過ぎるコッテコテの場面を描いてやる!と、さかきは意気込んでいたのですね。
で、それには勿論、港と船の取材が不可欠ですので、事前にAさんにセッティングを頼んであったのです。

さあ意気揚々と港に向かおうとした私の前に、何と、恐ろしい敵が立ちはだかったのです・・・!
それは、ギリシア取材の準備を進める際に恐れていた、例えば政治的混乱、治安の悪化、そういった懸念とは程遠く、まったく新しい分野からの脅威でした。
新手の伏兵、つまりそれは、“ロバ問題”だったのです・・・!
あ、ロバって、あの、とろんとしたツブラな瞳と優しそうな口元、結構大きいウサギのような耳、全体としては馬の小柄ヴァージョンみたいな、「ロバ」ですよ。

サントリーニは島ですから、そこを訪れる際に、我々のように飛行機を使う者もあれば、船を使う方もいらっしゃいます。
船で島に入った人は、港から街に向かおうとしますが、ここサントリーニはカルデラ地形、そり立った崖に囲まれた島です。
ですから港から街まで向かう以前に、まず海面から崖を登り、街と同等の標高まで上がる必要があるのです。
これには二通りの方法があり、ひとつにはゴンドラに乗る、もうひとつが、崖面をジグザグに切り取る長―い階段を登る。
そして階段を登る場合、非常に長く急こう配な階段のため、人のアシで登りきるのは辛かろうということで、人が乗るためのロバさんが港や階段に大量待機しているのでした。

フィラの街から港まで、Aさんに誘われるままに下り始めた我々でしたが、カメラ片手に風光明媚な景色を堪能するのも束の間、すぐさま、ロバの皆様と対面を果たすことになるのです。
で、さかきは動物が苦手なワケです。
特に、このロバさんは、場所によっては階段の両側びっしり、物凄い頭数が居並んでいるのです。
しかも、超・至近距離。
さらには、階段のそこら中に、ロバ諸兄による○○○が・・・。
(ちょ・・・ここで、もしか転んだりしたら、わしは、わしは、わしは一体どうなるんじゃ・・・!?)
びくびくしながら階段を下りる私は、もはやソフィアの取材のことなどすっかり忘れ、「ロバとの距離をできるだけ長く取る」ただその一点にのみ集中しました。
異様に長い、長すぎる階段を下り切り、「よっしゃもうすぐ港」という所まで降りた時、最大の難関が私に訪れたのです。
つまり、道が、左右両側いっぱいまで、ロバによって完全に塞がれていた・・・!
旅行の最中、様々な“マジ泣きシーン”がありましたが、おそらく、このときの“泣き”が、もっとも本気の泣きだったと思います。
敵との戦いは何とか白星とはしたものの(つまり、ロバさんとの接触を最小限にした、ということです)、完全勝利とは言うには程遠く、この日の港取材の成果は「ギリソフでは船のシーンは絶対に入れない」と決意を固めたことだったのでした。

さかき(ギリシア紀行はさらに続きます)

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